1. はじめに:M&Aの銀行融資とは?
「銀行さん、M&Aの融資ってお願いできますか?」
ある日、取引先の経営者からそんな相談を受けたら、あなたはどう対応しますか?
突然の依頼に戸惑うかもしれませんが、銀行員として適切な初動を取ることが重要です。
M&A(企業の合併・買収)において、銀行融資は重要な資金調達手段の一つです。自己資本だけでM&Aを実施できる企業は少なく、多くの場合、銀行融資を活用します。
本記事では、M&Aの銀行融資を依頼された際の初動対応について解説します。
2. M&Aの銀行融資を依頼された際の初動対応
① まず何を確認すべきか?
M&Aの銀行融資依頼を受けた際、最初に確認すべきポイントは以下の通りです。
- M&Aの目的:事業拡大(既存領域 or 新規領域)なのか?
- 既存領域の場合:既存事業の成長戦略の一環として買収するのか?
- 新規領域の場合:異業種参入や新技術の獲得が目的か?
- 買収対象企業の概要:業種、財務状況、将来の成長性
- 買収対象のビジネスモデルは、自社とのシナジーを生み出せるか?
- 財務健全性はどうか?負債過多ではないか?
- 必要な資金額:自己資本と銀行融資の割合
- 自己資金と他の調達手段(社債発行など)を組み合わせる可能性はあるか?
- 買収後の資金繰りに問題はないか?
- M&Aスキーム:株式譲渡か、事業譲渡か?
- 株式譲渡は企業全体を引き継ぐため、契約関係もそのまま継続するが、簿外債務などのリスクがある
- 事業譲渡は特定事業のみを買収できるためリスクは限定されるが、契約の引き継ぎや税務処理が必要になる
- 買収企業の財務状況:買収主体(借り手)の信用力
- 追加の負債を抱えても健全な財務状態を維持できるか?
- 既存の借入先との協調融資の可能性はあるか?
② 初動ヒアリングのポイント
- M&Aの背景(なぜ買収するのか?)
- 買収対象の財務状況(収益性・負債状況)
- 資金調達の全体像(自己資本・他行の関与の有無)
- M&A後の経営計画(シナジー効果の見込み)
3. LBOローンとコーポレートファイナンスの違い
① LBOローンとは?
LBOローン(レバレッジド・バイアウト・ローン)は、買収対象企業の将来のキャッシュフローを返済原資とする融資手法です。主にPEファンド(プライベート・エクイティ・ファンド)や経営陣によるMBO(マネジメント・バイアウト)で活用されます。
特徴
- 買収企業の信用力ではなく、買収対象企業のキャッシュフローを重視
- 高い負債比率(レバレッジ)で資金調達が可能
- 買収対象企業の収益性や財務安定性が重要
② コーポレートファイナンスとは?
コーポレートファイナンスは、通常の企業融資であり、買収企業(借り手)の財務内容や信用力を基に融資が決定されます。
特徴
- 買収企業の信用力が担保となる
- LBOローンと比べて負債比率は低め
- 買収後の事業計画よりも、買収企業の信用力を重視
4. M&Aの銀行融資に関する行内報告のコツ
- 取引先企業の概要(業績・財務状況・業界ポジション)
- 買収対象企業の概要(財務内容・成長性)
- 買収スキーム(LBO適用可否、自己資本比率)
- 融資の方向性(LBOローンか、コーポレートファイナンスか)
5. M&Aの銀行融資 成功事例と失敗事例
【成功事例】 サントリーによる米ビーム社の買収(2014年)
- 背景:サントリーが約1.6兆円で米国のビーム社(「ジムビーム」ブランド)を買収
- 資金調達:LBOローンを活用し、デットファイナンスを最大化
- 成功要因:
- サントリー自身の信用力と酒類業界での実績
- ビーム社の安定したキャッシュフロー
- 買収後の事業戦略の明確化
【失敗事例】 オンワード樫山によるジョセフ買収(2000年)
- 背景:オンワード樫山が英国の高級ブランド「ジョセフ」を約100億円で買収
- 資金調達:LBO的なスキームを活用
- 失敗要因:
- ブランド価値の向上が想定通り進まなかった
- 欧州市場の競争激化で成長率が低迷
- オンワード樫山本体の業績も伸び悩み、負担が大きくなった
6. まとめ
M&Aの銀行融資では、
- LBOローンとコーポレートファイナンスの違いを理解することが重要
- 適切な初動対応と行内報告が案件の成功を左右する
- 買収後の事業計画の現実性が、融資審査の成否を決める
銀行員としてM&A融資を担当する際は、事前準備を徹底し、リスクを見極めたうえで適切な融資スキームを選択することが求められます。

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